米澤穂信講演会in早稲田大学

開始ギリギリに何とか会場に。
終始和やかに進みました。
同志社大学で行われたそれと、おそらく同じ形式で行われたと思われます。*1


適当にメモしていたので、語られた順序通りとは限りません。
発言に脚色が加えられている場合があります。ご注意ください。
記述の表記にばらつきがあるのは仕様です。ご了承ください。

ネタバレ上等!な講演会でしたので、内容に関しては続きを読むからどうぞ。

おすすめ作品について。

「椛山訪雪図」がこの作品集のベストと思っていたが、
今では「狐の面」が本当に良い。
初心者に薦めるならば、ヨギ・ガンジーシリーズの?? *2

ゲームブック
居住地域の関係で、 購入できたのは双葉社エニックス文庫*3のものが中心。
東京創元社富士見書房社会思想社のものはほとんど入手できなかった。
印象に残っているものは、『ルパン三世 戒厳令のトルネイド』*4

子ども時代に大人の世界に触れた一冊、とのこと。
自分の作品ではそれができていないので内心忸怩たるものがある。

ジャンル批評的なミステリ。

  • 『ホッグ連続殺人』 W.L.デアンドリア

自分では書けないタイプの作品だから、愛着を覚えているのかも。

  • 『沈黙のセールスマン』 M.Z.リューイン

自分には書き得ないペーソスに憧れる。
自分は遅れてきたリューイン読者なので、『豹の呼ぶ声』から次回作までの長いブランクは経験していない*5


作家になるまで

中学時代に、作品を書き始めた。クラスに、一人か二人、そんな奴いるでしょ?
その作品はなかなか終わりを迎えることができず、高三の秋か冬に、完成した。
だいたい650枚くらい。
今のところこの作品を超える枚数の作品を書いていない。
この処女作の改稿予定は今のところない。今の作風とあまりにもかけ離れているから。
大学入学前後に、Windows95が発売されて、オンライン小説の道へ。
その当時は、今ほど殺伐とした世界ではなく、日に最高20hit程度。
経験を積むことを目的に、ショートショートを四十日ほど連続して執筆したときがある。
だいたい5〜16枚程度の作品を掲載していた。ジャンルは多種多様。
メリットは、決まって見てくれる人がいること。デメリットは、最近掲示板を荒らされて、その処理に苦労したこと。
一時代前の者からではありますが、ネット小説は修行の場であって闘う場ではないと思う。

日常の謎」について

日常の謎」だけではなく、多種多様なものを書きたい。
今はあくまでも、足場作りとして「日常の謎」ものを中心に書いている。
倉知淳の軽妙さに憧れる。
「猫丸先輩」シリーズは日常の謎じゃない。あんなにも殺人が起きてるんだから。
東京創元社から刊行されているなかでは、『幻獣遁走曲』だけでしょう。
日常の謎」作品としては、『六の宮の姫君』に可能性の広がりを感じた。

自作解題的な質疑応答

当初は他の文学賞に投稿しようと思っていたが、締め切りに間に合わないことが判り、角川学園小説大賞に投稿。
習作をリメイクしたもの。当初は登場人物は大学生だった。読者層を鑑みた結果、年齢をおとして高校生にした。
古典部にした理由は、特別な部活ではないから。
野球部などと違い特別な目的もなく、特別な人ではない。どのような人物が登場するか先入観を与えないように。
古典部」ではなく「弓道部」に所属していたので、文化系の部活というものを経験の上書いているわけではない。

廃村に取材に行った。そこそこ綿密に取材した。
ホームズは好きで、ジェレミー・ブレットのDVDボックスを虎視眈々と狙っている。
ホームズはどちらかというと日常の謎だろう。
ホームズは初心者向きとは言えないだろう。
初心者にミステリを薦めるならばもっと新しめの本格を。
好きな探偵は、物部太郎*6・猫丸先輩*7
ノックスの十戒、ダインの二十則は、それほど重視していない。
解決編前の段階で、読者に勝利可能性(フェアネス)があればよい。
フェアネスを持たせていれば、必然的にルールに従っているだろう。

折木奉太郎は動かしづらい主人公。だが、推理に積極的な主人公を書く気にはもっとなれなかった。
それまでの作品は事件の解決=彼の成長だったが、この作品から他の古典部員にもスポットライトを当てるようになった。
今月売り以降の『野生時代』に掲載される「古典部」シリーズは、ヴァレンタインの出来事、福部里志にスポットライト。
プロットの整理のためにトランプのスートを利用。その後に仕掛けを仕込むことを考えた。
高3時代の文化祭で映画を撮ることになり、古畑任三郎ブーム。ミステリを撮ることになったが素養のあるものがいないので、自分が立候補、脚本を書く。文化祭当日は校舎裏で本を読んでいた。私の仕事は終わった、ということで。
始めから「古典部」シリーズ三作目として構想された作品ではない。
P21の福部里志の無駄知識に関するくだりがお気に入り。

古典部」シリーズの三作目として構想されていた。
さよなら妖精』というタイトルはミスディレクションではなく誤謬。
マーヤが妖精だと(守谷は)思いこんでいたが、彼女は地に足のついている存在。
むしろ彼の方が妖精的。
「哲学的意味はありますか」はゲーム開始を宣言する合図。
古典部」シリーズならば「私、気になります!」
文化的背景はありますか、言語化できますか、程度の意味。
技術的困難に直面した作品。
ユーゴ情勢の提示が必要だったのだが、二章は初稿では200枚書いていた。
編集に詳細すぎると指摘され、50枚に圧縮した。
この物語は「戦死者の物語」、マーヤの死はあらかじめ予定されていた。
古典部」シリーズでは「探偵」「依頼人」「ワトソン役」「警察」、四つの役割がきっちり分けられているが、この作品では未分化・不分明にしてある。

「償ってもらわないと」がお気に入りの台詞。やっと書けたなあ。
「おいしいココアの作り方」は実体験に基づく。
台所でココアを作っていたときに、肝心の鍋は使用済みの状況でシンクに。
わざわざ洗うほど飲みたいわけではないがどうしようかと思案していたときに、思いついたのがあの解決。

予定されていたタイトルはリンゴ飴だったが、スイーツ好きがそれで満足しないだろうと言われ、表題の品に変更。
(スイカやメロンがシーズンの果物だが、スイーツにするよりも単独で食べた方がおいしいと言うことで却下)
前作刊行後に大森望氏に「あまりスイーツ好きじゃないでしょう?」と言われ、「もっと食べて書かなければ」と思った。
取材をしたのは秋になってから。なのでパフェのイメージに苦労した。
吉祥寺のパルコ地下でパフェを食べた。周りは女子大生ばかりで気まずい思いをした。
スイーツを食べる−>血糖値が上がって満腹になる−>他のものが食べられない−>栄養失調になった。

  • 『犬はどこだ』

始めは三人称で書いていたが*8、この作品は一人称で書いた方が都合が良いと言うことで書き直した。
複線プロットなので、管理が大変だった。表に出ているのは二人だが、裏で動いている二人もいるので、その調整が大変だった。
チャット相手は脳内人格ではない。実体を持った人間としてしかるべき時に登場させる予定。
「殺人事件」が書ける場を作り出すためにこの作品を書いた。

一泊二日の取材旅行。昼二時から夜三時まで取材。翌朝七時半の電車で帰京。
さよなら妖精』のようなひりつく青春の話を書いてくださいというオファーから。
この作品が米澤穂信の一次決算です。
Green-eyed-monsterは嫉妬の怪物。特に誰と言うつもりはない。

その他

ドラゴンボール』のスカウター的に戦闘力が一番高いのはマーヤ。知力が一番高いのは奉太郎姉。
少年マンガを好きでない奴はマンガ好きじゃない」と言われ、自分はそうでないので、マンガ好きとはいえないだろう。
好きなマンガは、『Spirit of Wonder』*9気分はもう戦争*10『マフィアとルアー』*11ヴァンデミエールの翼』*12へうげもの*13
小説では適切なところで終わらせることができるが、少年マンガでは不可能ではないか。
遊戯王*14は円満に終わったのではないか。
名字収集が趣味。
主要キャラクターはたいていそのストックから持ってきている。
古典部」シリーズの折木という名字は例外で、一人称の"俺"から命名
ミステリの方法論を用いて書いていきたい。
叙述トリック以外。嵐の山荘もの、クローズド・サークル、暗号、ダイイング・メッセージ、モジュラー型。
物理トリックも…あるかもしれない。


今後の新刊情報などについて。

何人か編集者が紛れ込んでいるので言いにくいが…。
「秋期限定」に関しては、連載をして刊行と、 書き下ろして刊行の二択だったが、
書き下ろして刊行の方が早期に単行本化できると言うことで、
そちらを選択。刊行時期としては来年の夏、『ひぐらしく頃』までには、とのこと。
この件に関しては、質疑応答で聴かれていたのですが、
あまりに剛速球、むしろ危険球ではないかとおっしゃってました。
「デッド・ボール!」 *15
古典部シリーズ完結までの巻数配分・青写真はできていて、 卒業までは書き続けるつもりとのこと。

余談

語られたことの八割くらいだと思う。
自分の右斜め前にはT京S元社のM沢さんが座っていらしたようで*16
終演後には他社の担当氏と大人の会話が繰り広げられたに違いない。
一番好きな作品は、『クドリャフカの順番』だそうで。他社作品なのに。


11/6追記:最初期に書かれていた文からこぼれていた部分を、2ちゃんねるラ板米澤スレ4から補完しました。スレにレポをあげられた方、ありがとうございました。

*1:http://d.hatena.ne.jp/ryou-akiyama/20060617#p1

*2:タイトルを失念された模様。同志社の講演時には『しあわせの書』を薦めていたそうなのでおそらくそれ

*3:現:スクウェア・エニックス

*4:http://www.g-root.jp/buyandsell/book/BK00690.html

*5:=93年から06年の間にリューインを読み始めた

*6:都築道夫、『七十五羽の烏』『最長不倒距離』『朱漆の壁に血がしたたる』

*7:倉知淳、『日曜の夜は出たくない』『過ぎゆく風はみどり色』『幻獣遁走曲』『猫丸先輩の推測』『猫丸先輩の空論』

*8:今までの作品がすべて一人称、三人称が書けるか心配だったのでリハビリのつもりで書いていた

*9:鶴田謙二講談社

*10:矢作俊彦大友克洋双葉社

*11:TAGRO、スタジオDNA

*12:鬼頭莫宏講談社

*13:山田芳裕講談社

*14:高橋和希集英社

*15:ワセダヘストライク!

*16:アンケート用紙に堂々と名前、書かれてました